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執筆者の写真Asian Commons

「日本の刑事拘禁施設における人権状況」

2022年10月27日、ALNメンバーは、監獄人権センター(CPR) の事務局長から直接、日本の刑務所・拘置所における人権状況と、国際基準とのギャップなどについて詳しく聞く機会を頂きました。以下は、お話し頂いた内容をまとめたものです。


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独居拘禁の問題

日本では、非常に広範囲に独居拘禁が使用されている。大きく分けると、4つの種類の独居拘禁がある。


①刑務所のルールに違反した時に懲罰として入れる。懲罰を課す手続きに従うが、最長で60日。

②隔離と呼ばれる独居拘禁。他の受刑者から攻撃を受けているような受刑者を守るために一定期間他の受刑者から隔離する目的。

③保護室収容:精神的に不安定な受刑者が自殺したり他の受刑者を攻撃したりするのを防ぐため。

④行儀の悪い受刑者を1人部屋に閉じ込めるため。


最初の3つは、法律によって期間の制限などが設けられているが、4つ目の独居拘禁は法律で定められていなく、期間の制限もない。


日本の刑務所に関する法律

2005年に100年ぶりに改正された。この改正の際の議論でも、独居拘禁に関する議論がなされ、期間制限を設けるべきだとなった。日本の市民団体は、この法改正によって、独居拘禁に期間制限が設けられてると思っていたが、実際は、4つ目の拘禁を使い始めた。4つ目の独居拘禁が運用されることは、市民団体にとっては予想外だった。結果的には、法律に基づかない独居拘禁が行政によって作られたことになる。


東京拘置所の独居部屋

狭い部屋の真ん中に置かれた机の前に受刑者が座っている図。日中は、正座か安座しかやってはいけない。例えば、壁にもたれかかったり、足を伸ばしたりすると懲罰が与えられる。4つ目の独居拘禁は、このような狭い部屋にこのように正座・安座をしていなければならず、腰やひざを傷める人が多い。面積は、5・1平方メートル。


国際的には、さきほどの4つの独居拘禁は、まさに国連の定める独居拘禁の定義に当てはまる。国連の最低基準規則では、15日を越える独居拘禁を禁止している。しかし、日本では、懲罰としての独居拘禁の再上限は60日。4つ目の独居拘禁に関しては、上限がなく、法律による定めがない。人によっては、10年以上独居拘禁の人もいるし、50年以上独居拘禁の人もいる。他の受刑者から隔離する処遇は、受刑者の心身に影響を与える。先日実際に会った受刑者は、長い間の独居拘禁で精神病になってしまっていた。身体の震えや歯ぎしりが止まらない状態。歯ぎしりのせいで歯が割れて、口の中にささって血がでている。それでも、彼女に対する独居拘禁は解消されない。


懲罰としての独居拘禁は、面会、読書などできない制限がつく。4つ目の独居拘禁の場合は、刑務作業をしながら正座や安座をしていなければいけない。懲罰としての独居拘禁の場合は刑務作業もできないので、壁を見ながら座るしかない。


刑務所の医療問題

日本では、刑事施設の外では、国民は皆健康保険に加入している。しかし刑事施設内では、国保は使われず、法務省が医療費を全額負担している。法務省の予算では、受刑者に割ける予算にも限度がある。一般社会では使われる薬が、予算のために使えないということが頻繁に起きる。それ以外にも、刑務所の医者が受刑者が病気を偽っていると疑って治療してくれないことがある。受刑者が医療を受けたいという場合は、まず願い入れという書面に事情を書いて、刑事施設側に提出する。それを看護師である職員がまず見て、もし必要ないと判断された場合は、医者に診てもらうこともない。医者と面談できたとしても、医者の診断の場には刑務所の職員が立ち会う。そのため、治療の方針も刑務所側の意向を反映したものになってしまう。医療が刑事施設から独立していない。


【具体的な事例】

独居拘禁によって歩けなくなった受刑者がいる。お風呂に行く時や運動場や面会室へ行く時に車椅子を使わせてくれと頼んだが、刑務所の医者が認めてくれない。おそらく、車椅子を使って歩かなくなると職員側の負担が増えることへの懸念が原因ではないか。歩けないのに使わせてくれないので、お風呂場まで床を這って移動していた。弁護士が面会に来てくれたのだが、面会室まで歩いていけないので面会ができなかった。一般の社会ではあり得ないことだ。ただ、難しいのは、何が医療として正しいかの判断には、基本的に専門家の意見が必要となることだ。特定の治療方針や治療が一般社会の基準に達してないかの判断は非常に難しい。しかし、現場で面会などしている弁護士としては、施設内の医療はかなり劣っていると感じる。


数年前に、東京に大きい医療刑務所ができた。末期がんの受刑者など深刻な病気を抱えている受刑者がそこで治療を受けるようになった。しかし、私たち市民団体としては、そこでの医療が社会一般の水準に達してないと疑っている。その医療刑務所ができる前なら、がんが見つかった時点で地域の病院に入院させていた。しかし、大きな医療刑務所ができたせいで、受刑者はギリギリまで待って、そこへ移送されるようになった。末期なので、手術をしても治らずに亡くなる方が多い。


刑務所の許可なく薬を差し入れることはできない。また、刑務所が薬の差し入れを許可することはまずない。それから、自費で医者を雇う、ということも刑務所の許可がない限りできない。もちろん、面会室に医者が来て、面会室で医者と話すことはできる。ただ、面会室はアクリル板で仕切られているので、受刑者の体を医者が触れることはできない。もちろん、面会室の中でも、受刑者の話を聞いて目で確かめて医者の意見を言うことはできるが、できるのはそれくらい。自費で医者を雇うことを刑務所が許可することは非常に稀だ。毎年、全国の刑務所の中で5件ほどある。(例:インプラントの措置を取るために自費で医者を雇うなど。)そのほかにも、精神科の医者を雇った例もある。しかし、末期の病気で手術が必要な例で医者を雇ったという例はない。


重篤な場合は、入院させることはできる。刑の執行が停止されるので、入院すると家族と受刑者が接触することができる。東京で大規模の医療刑務所ができるまでは、末期の場合は刑の執行を一時停止させて地域の病院に入院させるのが一般的だった。CPRもそのような相談を受けた場合は、刑の執行を停止して入院させることを支援していた。しかし、その医療刑務所ができた後は、刑務所側は刑の執行を止めることはせず、むしろ、医療刑務所に移送させるようになった。その結果、私たちが刑の執行を止める申請をしても認められないケースが増えてきた。刑の執行が停止されないので、家族は亡くなる時も、受刑者の身体に触れることができない。亡くなる直前には受刑者の側にいたいと思うのが家族の感情だと思うので、それができないのは非常に問題だと思う。


3.終身刑の問題

日本の終身刑は無期懲役と呼ばれている。無期懲役の場合は、10年間服役すると仮釈放の機会が与えられる。しかし実際には、30年以上服役しないと釈放の機会が与えられることはない。1998年くらいまでは、15年ほど服役すれば釈放の機会が与えられていた。しかし、2006年頃からは30年以上でないと釈放されなくなった。その後も、終身刑受刑者の服役期間は長くなっていて、今では、釈放された人の服役期間平均36年になっている。中には、60年服役した人もいる。このように、日本の終身刑は実際上、釈放の機会はほとんど与えられない。釈放される終身刑受刑者は3分の1ほどで、残りは全員刑務所の中で亡くなっている。釈放される方も30~40年服役しないと釈放されない。実際は、釈放なしの終身刑といってもいいが、死刑の代わりに、釈放の可能性のない終身刑の導入を提案すれば、一般市民が死刑廃止を受け入れるのではという考えからかもしれない。しかし、こうした動きは新たな「絶望の刑」を作ることに繋がると警戒している。


先日、東京拘置所の死刑囚から手紙が届いて、東京拘置所では独房の中が監視カメラで常に監視していることがわかった。死刑囚は5.1平方メートルの部屋に閉じ込められ、天井に設置された監視カメラで一日中監視されている。便所、着替えなど全て監視カメラで見られている。女性の死刑囚も男性職員によって監視されている。今まで、監視カメラによる監視というのが市民団体によって問題提起されてなかった。そこで、数人の死刑囚をインタビューし、海外のNGOと国連に報告書を提出した。今月の上旬に自由権規約に関する日本政府の審査があった。そこで死刑囚に対する監視に関して、委員会から日本政府に対して質問が出ていた。私たちのレポートに基づいた質問だった。11月の上旬くらいに勧告が出るはずなので、この監視問題に対しても勧告が出るといいと思っている。


日本政府は国際社会からのアドバイスを全く受け入れていないが、改善の余地が全くないわけではない。国際社会からの圧力で、一定の成果が上がった例としては、入管施設の問題がある。国連からの勧告が出たことで市民運動が盛り上がり、改善に繋がっている。ただ、結果的に国連からのプレッシャーによって進展が得られないとしても、日本国内の市民や国際社会に対して情報を与えるという面では、このような国際社会での活動は意味があると思う。また、部分的にではあるが改善されている例としては、刑事施設内にもエアコンが設置されるようになったことだ。暑すぎて亡くなる受刑者がいることが市民の間で問題視されたからだ。


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