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アジア法律家交流会第3回目「LGBTに関する勉強会」


2022年5月30日、アジアの弁護士や専門家が情報交換や知識を共有することを目的とした東京大学主催のオンライン交流会にALNのメンバーが参加しました。日本弁護士連合会LGBTの権利に関するプロジェクトチーム、ならびにLGBT支援法律家ネットワークに所属し、多くのLGBTの事件を担当している三輪晃義弁護士を講師としてお招きし、日本におけるLGBT権利とその現状をお話し頂きました。また、東京大学大学院所属の郭立夫さんには、中国と日本のインターネットにおけるトランスフォビアに関する研究結果を発表して頂きました。


以下は、講義や研究結果の内容をまとめたものです。


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LGBTに関する講義


日本で暮らすLGBT

日本の人口に占めるLGBTの割合は、各種調査によると約3~5%で、20~30人に1人の割合で、中国に当てはめると、約4500万人のLGBTが暮らしていることになる。また、P&Gジャパン合同会社が2021年に実施した全国調査によると、回答者の4割強が身近にLGBT+が存在しないと回答している。つまり日本では、LGBTの存在は社会で可視化されていないともいえる。


日本社会でLGBTがどのような立場に置かれているか

存在が可視化されてないため、LGBTに対する根強い差別意識が残っている。自民党の国会議員が、「同性カップルは(子どもを産まないので)生産性がない」と発言したが、政治家によるこのような差別的発言はしばしばある。日本労働組合総連合会が2016年に実施したアンケート調査では、回答者の3割以上が「上司・同僚・部下がLGBだったら嫌だ」と回答したことも報告されている。


LGBT当事者の両親の多くがLGBT当事者ではないので、家族に理解してもらうことが困難であり、特に若いLGBT者への精神的負担は大きい。また、教育現場でもLGBTに関する授業が行われていないことも問題である。


職場でも、悩みを抱えるLGBT当事者は多い。国が2019年に実施した調査によると、LGBの約4割、Tの約5割が職場で困りごとを抱えているという結果が出された。具体的には、求職、福利厚生、ハラスメント、トイレ等の施設利用で困ることがある。そして、同性カップルは婚姻することが認められておらず、不安定な生活を強いられている。


トランスジェンダーに対する差別も深刻だ。トランスジェンダーは女性の安全を脅かす」「トランスジェンダーが女性トイレを使用すると女装した性犯罪者と見分けられない」といった発言も多いため、差別された当事者は自尊感情を持つことができず、精神的に不安定になる傾向がある。ある街頭調査(2001年)によると、自殺未遂の経験がある同性愛者・両性愛者は異性愛者の約6倍にのぼる。自殺未遂の経験があるトランスジェンダーはシスジェンダーの異性愛者の約10倍にのぼる。


LGBTと法制度

日本国憲法では、あらゆる権利が国民に保障されており、LGBTも例外ではないと解釈できる。しかし、LGBTの存在に着目した立法は、「性同一性障害者の性別の取扱いに関する法律(性同一性障害者特例法)があるのみだ。

  ①18歳以上であること、②現在婚姻していないこと、③現在未成年の子がいないこと、④生殖腺の機能がないこと、⑤他の性別の性器に近似した外観を備えていること、の要件を充たした場合、男性は女性として、女性は男性として取扱われるよう法的手続きをとることができる。これらの要件が厳しすぎるとの意見も根強く、③要件や、④⑤要件が憲法に違反するという訴訟がたびたび起こされているが、最高裁判所は憲法に違反しないと判断した。


また、同性カップルは婚姻することが認められていない。市区町村に婚姻届を提出することによって婚姻が成立するが、同性カップルが提出した場合は婚姻届が受理されない運用となっている。その結果、相続ができない、患者が意識不明の場合に手術の同意ができない、DV防止法の保護を受けられるかどうか不明確、公営住宅への入居ができない場合がある。更には、女性カップルが共同で親権者となることができない、「日本人の配偶者等」の在留資格を得ることができない、税制上の優遇が受けられないなど、無数の不利益を被っている。


不利益を解消するために、養子縁組するカップルも存在する。現在、全国5か所の裁判所(札幌、東京、名古屋、大阪、福岡)で、同性婚を認めていない現行法が憲法14条、24条に違反するとして国に対して賠償を求める裁判が起こされている(「結婚の自由をすべての人に」訴訟)。



LGBTを取り巻く社会の変化

2015年、国から教育現場に対して通知が出され、LGBTの児童生徒については学校生活を送る上で特有の支援が必要な場合があるから、個別の事案に応じて、児童生徒の心情等に配慮した対応を行うことを求めた。このように、トランスジェンダーの児童生徒への個別対応は進んできてはいる。


その他に、2020年6月からパワーハラスメント防止法が施行された。性的指向や性自認に関する侮辱的な言動(SOGIハラ)やアウティング(当事者の意に反して性的指向や性自認を暴露すること)がハラスメントにあたり得ると明記され、雇い主に対して啓発義務、相談を受ける体制整備義務、迅速かつ適切な対応義務等が課せられることになった。


加えて、地方自治体では、同性パートナーシップ制度の導入が進んでいる。2022年3月31日現在、209自治体で導入されており、利用者は2832組いる。東京都も今年中に導入予定で、人口カバー率が大幅に上昇する見込み。ただし、婚姻の効果は一切発生しないから、婚姻の代替手段とはならない。同性カップルが「私たちは同性パートナーです」という宣誓書を役所に提出し、役所がそれを受け取ったことを証明する、という仕組みが多い。


2021年3月17日、「結婚の自由をすべての人に」訴訟で札幌地方裁判所が、「同性婚を認めていない現行法は、憲法14条1項(平等原則)に違反する」との画期的な判断を出した。次の判決は、2022年6月20日に大阪地裁で言い渡される。


そんな中、世論調査の結果によると同性婚への理解が進んできており、どのような世論調査をとっても、賛成派が多い結果になっている。

● 2021年3月朝日新聞電話調査

-認めるべき 65%

-認めるべきでない 22%

● 2021年6月NHK放送文化研究所調査

-賛成 56.7%

-反対 36.6%

● 2020年3月~4月の朝日新聞・東大谷口研究室共同調査

-賛成41%

-反対29%

※自民党支持層でも賛成が反対を上回った


2019年6月3日には、野党から「婚姻平等法案」が国会に提出された。同性同士の結婚を認めるという法律案だば、自民党が同性婚に賛成していないため、放置されたまま議論すらされていない。


このように、日本でLGBTが置かれている状況はなかなか厳しいが、市民の活動によって少しずつ変わってきている。



質疑応答


【コメント】

大学でも実際、日常的に多くの人が取り残されている状況だ。学内の団体で状況改善をしようとしているが、結構大変。国レベルで何か変わらないと限界を感じる。


【応答】

特に若い人たちの行動がこれからとても重要だと思う。世論調査などを見ても、高齢の男性はLGBTに寛容でないが、全ての世論調査で10、20代は理解が進んでることが傾向として見られる。若い人たちがどれだけ主体的に今後取り組むかによって、国が取るべき対応が大きく変わってくる。とても期待している。


【質問1】

日本では同性パートナーシップ制度を使う際は後見人を必要としますか?


【応答】

渋谷区では、後見契約なしでは制度が使えない。仕組みが面倒でお金もかかるので、支持率は低い。他の自治体では後見契約なしでも制度が使えるようになっている。男女が結婚するときは、役所で無料の用紙に記入して結婚できるが、同性カップルは何万円もかかる。それに対して疑問の声がよく上がる。


【質問2】

同性婚制度などにフォーカスしている感じだが、トランスへの理解や性同一障がいに関してはどんな状況でしょうか?


【応答】

差別を解消するためには、差別を禁止する法律が必要なのだと思う。野党が差別禁止法導入の話をしているが、自民・公明党は賛成してくれない。去年、LGBT理解増進法という法案が国会に提出されると話題になったが、それすら自民党が潰してしまった経緯がある。差別解消の法律を作るには長い道のり。そのような法律がないので、今の対応は、個別で差別があったら損害賠償請求をして、裁判所に差別解消を手伝ってもらうことしかできないのが現状だ。LGBTの人たちが名前や顔がわかる裁判ではハードルが高い。差別をなくす法律や制度をつくるのが大事。


【質問3】

LGBT関連法案に賛成する与党議員の割合はどのくらいですか?


【応答】

与党の中の賛成議員の割合は、表と裏がある。表ではごく一部で少数。ロビー活動で議員と話すと、裏では賛成していると話すこともちらほらある。表向きには保守的支援者の支援がなくなるので出せないという。


【質問4】

個人的に、もし日本で同性婚が採用されたら、最高裁が判決を下す形ですか?それとも法案を国会で可決する感じですか?日本では、司法と立法どちらが通りやすいですか?


【応答】

法律を作るルートと、裁判所で訴訟するルートを選択肢に入れてはいるが、実際に可能性が高いのは裁判所ルートかと思う。ただ、長期的には、国会で同性婚法を作ってもらう必要があるので、両方を進める必要がある。


【質問5】

民事損害賠償は、具体的には、どのような実例がありますか?(賠償額なども教えて頂きたい)


【応答】

違法な解雇のケースでは、日本では、職場に戻せという裁判をすることになる。そこで慰謝料が認められるケースは、LGBTでなくてもほとんどない。ハラスメントのケースの場合は、損害賠償はおよそ100万円前後。賠償金の水準がすごく低いため、裁判がハラスメントの抑止になってないと思う。


【質問6】損害賠償は具体的に何の損害に対する賠償ですか?


【応答】

ハラスメントの場合は、精神的な損害・苦痛を与えたことへの慰謝料・賠償。

解雇の場合は、解雇されてから現在までの未払い給料の請求。裁判に勝てば、全額認められる場合が多い。

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中国と日本のおけるオンライン・トランスフォビア研究の結果発表

2021年の東京オリンピックに、ローレル・ハバードというニュージーランド出身のトランス女性が女子重量挙げに参加した。試合開催中に、それに関するデータを中国の「微博」と日本の「ツイッター」上で調べた結果、どちらにおいてもネガティブなコメントが8割以上を占めていた。

トランスフォビア(トランス嫌い)に関しては、トランス女性の権利を議論しているというより、国家政治的、イデオロギー的な話と結びつけて語られている傾向が強かった。中国では、アメリカにおけるオルタナ右翼言説の引用が多く、白人左翼やLGBT/フェミニスト主張者の価値観が、公正公平の価値観を脅かしている、という考えが目立った。中国の国家アイデンティティとして、女性アスリートを語る傾向も強かった。トランス女性が女性選手として参加することで、中国の国としての安全・プライドが脅かされている、という考え方が目立った。「白左」(白人の左翼・リベラリスト)という言葉が最近よく使われるが、白左がLGBTやフェミニスト運動を支援して中国の共産主義を脅かしている、というような批判的な言説が目立った。


一方、日本では、行き過ぎた「進歩」(グローバルエリート)と行き過ぎた「保守」(中国・韓国嫌悪)を否定し、中国ともアメリカの白人とも異なる「第3の道」としての日本独自の保守的な考えが目立った。共産主義・資本主義のような分別の対立関係は少ないが、一番リツイートされてる内容は、「多様性という言葉でごまかすな」といったグローバルエリートに対する批判だった。


全体としては、トランスフォビアの議論でなく、トランスフォビアを通して保守言説が一気に盛り上がった印象を受ける。加えて、フェミニズムという言葉が流用されるという傾向も目立った。


中国人ゲスト参加者によるコメント

中国と日本のLGBTの状況はとても似ている。社会で可視化されていない点も同じだ。中国における性教育も、日本と同じであまり進んでいない。メディアの審査・検閲が厳しく、同性愛のドラマなどへの規制も厳しい。同性婚に関しては、2015年に中国でゲイカップルが訴訟を起こしたが、中国の婚姻法に男女ひとりずつ、と明確に書かれているため敗訴した。2019年に中国では民法を改正する動きが出て、LGBTQコミュニティがキャンペーンを始めた。18万人の署名が集まり、立法委員会が署名について公式に表明した。結果としては、法律は何も変わらなかった。


2020年のアメリカで子どもを出産、中国で離婚、のケース。親権を争う訴訟が起こり、公的議論が展開され、最終的に法学者(婚姻法)や立法者も含んだ議論になった。

中国では、同性婚をはっきり議論するより、家族(親、子どもなど)の話に関連付けて活動した方が効率が良いかもしれない。


中国のNGOや市民社会団体は、政治的に活動が難しくなってきている。個人的には、日本の活動にも参加していて、LGBTフレンドリーな弁護士のコミュニティは重要だと思う。P&Gの調査が三輪さんの講義に出ましたが、P&Gは中国でもLGBTフレンドリーな姿勢を見せている。今後協力して調査なども期待したい。


三輪弁護士からのコメント

家族の話だが、日本でも同性婚を2人だけの問題でなく、家族や社会との繋がりを意識して発信するように心がけている。例えば、自分の子どもが同性カップルだったらどう受け止めたらいいか、同性婚を認めたら幸せな2人が増えるだけ、などと語っている。本来、人権というのは他者が認めなくても認められるべきもの。社会の中で理解を増やすためには、周りとの関わりを意識しなければいけないという点は、中国と共通しているかもしれない。たくさんの方が声を上げているということに、勇気づけられる。


参加者との質疑応答

【質問1】

中国国内では、台湾と大陸との制度的優位性の争いがあり、同性婚合法化は大陸が過ちを認めることを意味して難しいと思いますが、どうでしょうか?


【応答】

中国では、台湾というより、同性愛者や性的マイノリティに対して一貫として語りたくない状況だ。同性愛者の権利を主張するのは西洋的=中国の家庭・文化的な価値を脅かすものだと見られる方がむしろ問題となっている。


【質問2】

同性婚を推進する流れ以外には、婚姻そのものを否定する法律的議論もあると思いますが、中国・台湾・日本でのそのような議論について、皆さんの感想をお願いします。


【応答】

➀台湾では、同性婚法の前に実は3つの法律が提示されたことがある。今の同性婚以外に、パートナーシップ制度や家族制度(結婚だけでなく、家族関係を結ぶパートナーしぽプ)の案があったが、婚姻制度に対する反省・批判があがり、最終的に同性婚になった。同性婚を推進しようとしている運動団体も、婚姻・家庭などの価値を絶対化しないようにしている。


②日本では、主にフェミニズムの観点から婚姻制度に対する批判が従来からある。同性婚を推進すると、問題のある制度を広げることになるという批判がある。同性カップルが婚姻制度から排除されているという点は理解されている。婚姻制度は素晴らしい制度、というメッセージは発してなく、差別だというメッセージを発する心がけをしている。


③中国では、コミュニティ内部での議論が盛んな状況。婚姻制度の共通認識を形成するために重要な議論で時間はかかると思う。ある団体が今の中国の法律の中で配偶者がいる者しか有せない権利を数えたところ、3000項目もあった。婚姻制度は、非常に多くの権利を認めるもの。婚姻制度の不平等について多くの人はまだ気づいてないので、このような話を広げていきたい。

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