top of page

アジア法律家交流会第6回目「ストーカーに関する勉強会②」


2022年8月2日、アジアの法律家が情報交換や知識を共有することを目的とした東京大学主催のオンライン交流会に、ALNのメンバーが参加しました。第6回目の勉強会には、台湾でジェンダー関連の活動をしている郭怡青弁護士から、台湾におけるストーカー犯罪の現状や、施行されたばかりのストーカー規制法についてお話し頂きました。また、日本でストーカー対策のカウンセラーをしている小早川明子氏もコメンテーターとしてお招きし、郭弁護士や中国人弁護士たちとの質疑応答に参加して頂きました。


以下が、講義と質疑応答の内容をまとめたものです。


*****************************************************************


「台湾のストーカー規制法について」



はじめに

これまで台湾では、セクハラ防止法など他の法律でストーカー行為で処罰するという形をとっており、よくあるのはDV行為に関わっていればDV防止法で規制している。台湾のDV防止法は、元恋人、家族、親戚など夫婦以外も対象範囲になっている。男女間の交際関係がある場合はDV防止法が適用される。


ストーカー規制法立法までの民間の動きと経緯

2011年、民間のNPO団体「現代婦女基金会」により、ストーカー規制法の立案が提出された。しかし、2011年以前、すでに市民社会からはストーカー規制法立法について声は上がっていた。2014年、複数のNPO団体で暴力防止組織が作られ、ストーカー規制法の立法を進めた。2015年、更に多くのNPO団体が法律案を提出し、2021年に国会にて可決された。そして、2022年、今年の6月からストーカー規制法実施が開始された。


ストーカー規制法立法までの台湾政府の動きと経緯

ストーカー規制法立案で台湾政府が掲げた案は、日本のストーカー規制法をそのまま取り入れるだけの内容だった。それでも、より良い法律を作るべきだと弁護士たちが主張した結果、2018年の内閣会議で台湾版のストーカー規制法が可決された。


しかし、警察当局についての懸念が一点あった。ストーカー規制法ができたことにより、警察に負担がかかりすぎるのではという点だ。ただでさえ沢山の事件を追わなければならない警察が、ストーカー規制法にまで時間と人件費を注ぐ余裕はないという意見が出た。そこで、民間団体は警察当局に対し、一年間のストーカー事件の件数等をデータとして内閣に提出することを、内閣を通して依頼した。


一年間の事実調査の後、警察当局は調査データと方針を内閣に提出した。その報告に基づいて内閣で再考された後、2019年10月に新しく法律案が作成され、2020年4月に内閣で可決された。


国会審議の経緯の振り返り

最初に台湾内閣が国会に提出した法律案は、日本のストーカー規制法をそのまま取り入れたもので、民間のジェンダーや女性関連の団体は、対象範囲があまりにも狭すぎて十分な対応ができないのではないかという懸念を持っていた。


審議が行われ、内閣に草案が戻され、警察当局も調査をしなければならないという処置をとった為、2019年時点で審議未了で廃案となり、翌年2020年の国会で提出しなおさなければならなくなった。


この時は、内閣が提出した法律案と、議員其々が提出した法律案とで数が多く、議論も盛り上がっていた。それに加え、2021年までの一年間にストーカー事件がいくつか起こり、世論のプレッシャーと関心が高まったことで、審議に時間がかかってしまった。更に、2021年5月には、台湾で本格的にCovid-19が拡大したことで国会が一時中断された。その後、Covid-19が収束し始めたのと同時に国会が再開し、同年の年末に可決された。そして、2022年6月、正式にストーカー規制法が実施された。


携帯販売員殺人事件

台湾のストーカー規制法の最後の一押しとなったのは、ある悲しい事件だった。携帯販売員殺人事件である。


被害者は携帯販売店の店員で、加害者は店でセクハラ行為をその店員に行った理由で通報されていた。通報後もストーカー行為は続き、ある日、被害者が乗っていたバイクに加害者が車で接触し、そのまま被害者を拉致した。警察が被害者を見つけた時には、既に殺害された後だった。この不幸な事件を防げなかったのは、セクハラ防止法では不十分なためで、ストーカー規制法が必要だと世論の関心が高まった。


2022年6月1日~7月21日のストーカー案件データ

※今年6月にストーカー規制法が実施されてから内部調査したデータの報告。データはDV関連のストーカー行為とDV以外の一般ストーカー行為で分けてある。


DV関連のストーカー行為=292件

DV以外の一般ストーカー行為=299件


DV関連のストーカー行為だけでもストーカー行為件数の半分になる。また、加害者は主に男性で、被害者は女性である。


ストーカー行為が多いのは、通信型行為が345件だ。SNS、ネット、電話等通信手段を使い脅迫、性的画像の送付等の行為である。では、これらストーカー行為に取られた対処方法は、警告が401件で、そのうちの200件がDV関連であった。


DV関連と一般のストーカー行為とに分けた理由は保護命令にある。DV関連のストーカー事件の保護命令については、DV防止法が適用されるのでDV関連の保護命令の場合はストーカー事件の数字には含まれないことに留意してほしい。DV以外の一般ストーカー行為の32件は保護命令が出され、刑事事件(ストーカー罪)になったのは169件、そのうち起訴されたのは2件だ。これがストーカー規制法実施から1カ月半の状況である。


【質問】DV関連のストーカー行為(200)件について再度説明してほしい。


【郭先生の応答】

台湾のDV防止法では、夫婦以外でも元カノや一定の家族、親戚なども対象範囲になっている。結婚してなくても交際関係がある/あった場合には、全てDV防止法が適用されるので、上記の200件はその数字である。


台湾のストーカー行為の定義

人、自動車、工具、設備、電子通信、ネット等の方法で、特定の相手に繰り返し当事者の意思に反して性や性別、ジェンダー関連の行為を行い、相手に不安を抱かせ、日常生活や社会活動を著しく害されることをいう。


1. 具体的なストーカー行為の類型規定

➀監視

②尾行

③差別的言動

④複数回に及ぶメール送付、電話、書き込み

⑤不当な交際要求

⑥特定の相手に物や写真を送り続ける行為

⑦名誉棄損

⑧個人情報の悪用 例:その人の個人情報を勝手に使いピザ25枚を送り付ける(日本にこの規定はない)


ストーカー行為への対処手続きの具体的な流れ

➀ストーカー規制法に提示された8つの類型行為のうちの1つでも行う。

②その行為を反復した。

③その行為の意図が性や性別、ジェンダーに関わっている。


上記を行った場合:

まず警察に通報し、調査により書面警告の必要があれば書面警告を発令する。

書面警告がなければ、裁判所に保護命令が出せないからである。書面警告後、2年以内にストーカー行為を行った場合は、裁判所から保護命令が出せる。


DV関連のストーカーと一般ストーカーとでは、この保護命令の申し立てが違うのである。ストーカー規制法の場合は、まず書面警告を出す。この書面警告は、保護命令を出すための前提となっている。もし加害者、被害者が交際関係、家族関係にあった場合には、DV防止法の対象範囲になる。DV防止法の場合には、書類警告を待たずに直接裁判所へ保護命令を申し出ることができる。

これがDV防止法とストーカー規制法の違いである為、統計上でも分けなければならないのである。


また、刑法の中で、ストーキング行為に警察が事件性があると判断した場合には、刑事手続きに入り、逮捕、書類送検、起訴、と刑事手続きの流れになる可能性もある。


ストーカー規制法の保護命令の類型について

台湾のDV防止法には、12種類の類型がある。比較的多いが、ストーカー規制法は3つの類型しかない。その為、DV関連ストーカーと一般ストーカーでは上記のように保護命令を手続きも違うので、別々に適用されなければならない。


ストーカー規制法の保護命令類型:

➀行為を禁ずる禁止命令

特定の行為を禁ずる。戸籍を調べる等の特定行為

②接近禁止命令

特定の場所や被害者から特定の距離内での接近禁止

③医療命令

加害者に特定医療をうけるように強制的に命令する。精神的、アルコール、薬物等の依存症の治療も含まれる。



2. 主なストーカー刑事犯罪

➀ストーキング罪

1年以下の懲役、10万台湾ドル(¥40万円位)の罰金

②身の安全を害するものを使ったストーキング罪

5年以下の懲役、20万台湾ドル(¥80万円位)の罰金

③保護命令の違反

3年以下の懲役、30万台湾ドル(¥120万円位)の罰金


3. 台湾のストーカー規制法の問題点

ストーカー行為の定義について、内閣、国会、民間で大事だと認識していたのにも関わらず、なぜ立法まで6年もかかったかというと、恋愛感情がなければならない日本版ストーカー規制法を内閣がそのまま取り入れようとしたからだ。


「恋愛感情」という表現を入れると、沢山のストーカー行為が対象外になってしまう。そのため、恋愛感情より幅広い「性と性別」を台湾は取り入れた。

台湾政府が「恋愛感情」という表現を入れたかった理由は、多くのストーカー事件が事件として認定されると、警察の対応が間に合わないのではという懸念からだ。


性と性別を対象にしているが、対象外になっている件もある。加害者の意図がよくわからない、報復、服従の為という理由は、適用範囲外となる。また、台湾でよくある借金等の取り立て屋も対象外である。台湾では、取り立てに対する規制はなく、借金をした当事者が逃げた場合、取り立て屋の常として女性等弱い立場の人に取り立てに来る。取り立て行為がストーキング行為の該当になってはいるが、「性と性別」の枠には入ってない。しかし、ジェンダーマイノリティーの女性が被害者で多いのは事実である。


二つ目の問題は、手続きとして保護命令を出すには書面警告が前提という事だ。警察から書面警告を出してもらうのは、被害者を早期で守るためだが、裁判所の保護命令の方が被害者は長期で守られる。DV防止法のように、警告と命令を同時進行すればより早く守られる。書面警告で更に違反した後に保護命令という手続きは、申立のハードルが高過ぎるという問題がある。警察が書面警告を出す要件として、ストーカー被害に少なくとも二回遭っていることが必要とされている。さらに三回目の被害を受ければ、保護命令を申立することができるようになる。つまり、保護命令を申立する被害者は、少なくともすでに三回も被害を受けていることになる。その上、保護命令の審査期間は期限が設定されていないため、保護命令の発令が遅すぎるのではないかと考える。


三つ目の問題は、書面警告を違反しても罰則がなく、次に出される保護命令しかない。それではあまりにも不十分すぎる。日本のストーカー規制法と同じである。台湾の弁護士たちは、書面警告に違反した場合は、警察による行政処分が可能なのではと考えている。今後、加害者の行為を止める力を法改正において求める必要がある。その他にもまだ問題はあるので、参加者の方たちとも話し合えたら良い。




4. 郭先生の講義に対する小早川先生の感想

日本のストーカー規制法の不十分な点を改善して進めているのが素晴らしい。

また、禁止命令と医療命令が一緒に発令できるのが画期的で、日本でも取り入れたいくらいだ。日本のストーカー行為の類型に「個人情報の悪用」というのはなく、加害者がなりすましで物を被害者に送ることもあるので、被害者はそういった面でも救われていない。日本では恋愛感情がなければだめで、台湾ではそれより幅を広めた「性と性別」という枠あるが、そのようなくくりなしで全ての被害者を救済できればと思う。



質疑応答


【小早川先生からの質問1】

医療命令以前は、医師のアセスメントはどの段階で行うのか。


【応答】

台湾のストーカー規制法の医療命令のアセスメントは、すでにあるDV防止法の保護命令で司法実務的に基盤ができているので、DV防止法と同じ方法でストーカー規制法もアセスメントを行っている。医療命令の内容だが、裁判官個人の判断もあり、必要があればまず加害者の治療を医療命令とする。それから、加害者の戸籍地域の保健局に連絡し、保健局にアセスメントの依頼をする。保健局が指定医療病院に加害者の資料を渡し、指定病院は裁判所の保護命令により医療アセスメントを行う。そして、正式な文書で加害者を指定の場所、時間に病院に来るように命令する。


この通知を2回拒否した場合、病院側は保健局に「拒否」を通知する。そうすると、保健局で二つの行為が行える。一つは、地元の警察に依頼し、医療従事者と協力して、もっと強力なアセスメントが行なえる。もう一つは、加害者が拒否した後、医療命令が裁判所から正式に出されてなくても、保健局は裁判所に保護命令違反として「拒否」を連絡できる。そして、刑事手続きへ進めることができる。


【小早川先生の感想】

台湾では保護命令を裁判所が出しているからそこまでできるが、日本は禁止命令は公安委員会が発令し、内容も「ストーカー行為をしてはいけない」というだけだ。また、裁判所が保健局と連携し医療命令やアセスメントができることが素晴らしい。


【小早川先生からの質問2】

刑事手続きでも医療命令は出せるのか。


【応答】

刑事事件になった場合は、ストーカー規制法ではなく、刑事手続きの分野になる。6月からストーカー規制法が実施され、保護命令は全て非公開になっている。また、実際の刑事起訴案件は2件しかない。一般論としては、精神的疾患と判断された場合は、弁護士のアセスメント請求があれば鑑定を求めることができる。鑑定結果によっては、重罪でなくても罰金や刑事処分になる可能性もあるが、実際の処分に関しては今は何とも言えない。


【小早川先生からのコメント】

日本は司法処分しての医療命令は医療観察法しかない。それは重大犯罪に限られている。


【小早川先生からの質問3】

人や自動車、工具、設備という言葉が印象的だったが、GPSも規制されているのか。


【応答】

GPSについては、ストーカー規制法の判例は出てきていない。これからの判決次第だろう。現在台湾では、デジタル性暴力の法律が審議中でとても注目されている。ネット、SNS等、IT使用によるハラスメントや性暴力等を行うことについての法律なので、そう考えると、GPSはストーカー規制法よりデジタル性暴力の法律分野に入るのではと推測する。世論の注目は高いので、規制範囲以内にGPSは解釈されるのではと推測する。


【小早川先生からの質問4】

日本では、探偵はストーカーを支援する形で調査をしてはいけないのだが、台湾ではどうなのか。


【応答】

台湾では、基本的に探偵などの調査会社は使わない。理由は3つある。


➀調査にはかなりの費用がかかる為、一般人は調査会社や探偵は使わない。

②高い料金を調査会社に支払っても、台湾では調査会社や探偵はかなりグレーな会社というイメージが大半で、信頼されていない。

③個人情報保護法で個人情報は政府が管理しているので、取得するのが難しい。また、依頼しても大した情報は入手できない。しかし、政府機関から調査会社が情報を取得することについては、規制されていないと思う。


【参加者からの質問1】

保護命令を出す場合、接近禁止命令より医療命令の方が当事者に負担が多く、人権侵害になる可能性が高いということがあると思う。医療命令を出すには、どのような証拠を提出すればいいのか。


【応答】

保護命令を出す時は、医療命令、接近禁止命令など複数の命令と一緒に出すのは可能である。しかし、命令を発令するのは裁判官次第である。医療命令は確かに、当事者に負担がかかり、人権侵害の可能性が高い。しかし一方で、一般被害者が医療命令の為に証拠を提出するのも難しい。


一般的には、証拠を出すのではなく、裁判官に調査を依頼するのが基本だ。裁判所にはカルテや過去の経歴を調査する等の権限があり、過去の経歴を調べることでアセスメントの必要性を考えることができる。また、尋問も裁判所の権限である。逆に、裁量刑が広い為、調査せずに却下判定することも出来てしまう恐れがある。


【参加者からの質問2】

被害者は女性が多いが、男性のストーカー被害者の事件の場合は、何か特徴があるのか。


【応答】

現時点では判決は出ておらず、更に非公開であるため、事件内容を把握することができない。また、メディアで取り上げられるの事件の被害者は、ほとんどが女性である。1件、男性の医者が患者の女性からストーキングされたという件があるが、1件のみなので特徴は不明である。


【参加者からの質問3】

書類送検数が1桁とは起訴率が低いが、それは法律の実施期間が短いからなのか。起訴率が他の事件より少ないからなのか。


【応答】

弁護士でもそれは知ることができない。一般論としては、実施から時間が経ってないので件数が少ないのではないか。重罪ではない場合は、台湾の検察の対応はとても遅い。


【参加者からの質問4】

日本では男性被害者の事例があると思うがどうか。


【小早川先生の応答】

警察庁の統計だと、男性被害者は1割と発表されているが、私のところでは相談数は半分が男性被害者である。男性被害者の特徴としては、公的な場面を狙われる点がある。例えば、会社や家族が狙われることがある。男性加害者はプライベートな空間で被害者本人だけを攻撃する傾向があるが、女性加害者は影響力を強めたいからなのではないかと思う。


【参加者からの質問5】

台湾のDV規制法には保護命令の類型が沢山あり、治療命令やカウンセリング、精神医療など命令内容も重い。しかし軽い命令として、加害者にジェンダー講習やワークショップを受けさせる等の予定は今後あるのか。


【郭先生の応答(台湾)】

DV防止法と違い、今のストーカー規制法では治療命令しかない。法律にはない処置を出す可能性は低いので、今後もないのではと思う。


【小早川先生の応答(日本)】

日本だと、飲酒、薬物、性暴力等で捕まった人に対して、特別遵守事項として仮釈放の時などに専門的処遇プログラムを命じることができる。それは医療と言うより教育なので命じることができるのだろう。


【参加者からの質問6】

台湾にも、日本のように警察などと連携したNPOのような民間団体はあるのか。


【応答】

台湾では、現時点でストーカー対策を支援するNPOはない。しかし、DV防止法にはある。DVは沢山のNGOや民間で働くソーシャルワーカーが、DV被害支援やカウンセリングをしている。DV防止と被害者支援を重視する場合は、政府が補助金を出すのだが、ストーカー規制法にはその補助金はない。ストーカー被害者支援に対して政府が補助金を出すには至っていない事をとても懸念しているし、民間の相談窓口が少ないまま、今後スムーズに行えるのか心配だ。


**************************************************************


ストーカーに関する勉強会の2回目となった今回は、ストーカー規制法が施行されて間もない台湾の状況が共有され、タイムリーなものとなりました。日本のストーカー規制法から学んだ教訓を生かした台湾のストーカー規制法が、今後の日本での改正や中国での立法の参考となることが期待されます。

Opmerkingen


bottom of page